私とガーデンセラピー
10数年ほど前、心臓手術後の不安定な心の影響で、大学病院の精神科で鬱病と診断されて1か月半ほど入院しました。
最初の診察で「私は回復できるのでしょうか」と質問したことをよく覚えています。
食欲が全く無くなり、ほとんど眠れない日が続いていました。
体重は1ヶ月ほどで10kg以上減少し、後で担当医師から聞いた話ですが「これは大変なことになりそうだ(命が危ない)」と思っていたそうです。
実際、統計でも、拒食症で命を失う方はかなり多いのが現状です。
入院してからもベッドに横になり朝から晩までぼんやりと天井を眺めているだけの生活でした。
そこにはあるはずもない、伴奏付きの大声の演歌の歌声が、一日に何度も聞こえると言うようなおかしな幻聴もあり、なんだか、それがあたりまえの環境のようになってしまっていました。
睡眠薬で数時間眠れるときだけが、唯一救われた時間だったかもしれません。
深夜、眠れないときに看護師さんがすぐに追加の睡眠薬を静かに持ってきてくれて、あの時の看護師さんの方々の献身的な仕事ぶりにはいまでも感謝の気持ちで一杯です。
入院してから数日後だったでしょうか。入院患者の方々が許可をもらって外出して行くのを知りました。
行先は近場の商店街などが多かったようです。
担当医師に「私も外出をして良いか」と尋ねたところ、意外にも、すんなり、構わないとの回答でした。
(精神障害の程度によっては外出が許されないこともあります)
その大学病院の隣地には近隣でもかなり有名な広大な森林公園がありました。
以前から業務の一部としてガーデニングに慣れ親しんでいた私は、その公園へ外出することにしました。
遊歩道はかなり高低差もあり、一般の方々が気軽に散歩をすると言う場所ではないように思いますが、頂上部分の半円形のコロシアムのような場所の木製の座席で、冬の暖かな日差しのなかで散歩しては寝転んだりしていました。
ああ自分はまだ普通に歩いたりすることはできるんだ、というのが最初の感覚だったと思います。
心も少し晴れてきた気がしました。
毎日1~2時間の散歩を続けているうちに食欲も出てきました。
眠れないのは暫く続きましたがまったく眠れないということは無くなってきました。
鬱病では長期間回復しない人も大勢いますので、私はかなり短期間で回復したと言えます。
後のガーデンセラピーの勉強のなかで、私が入院中に行っていた散歩は、はからずも「森林療法」そのものであったことに気づきました。
また、様々な木々があり真冬でも木の香りがしていますが、これは「芳香療法」でもあったように思います。
私の鬱病の回復のきっかけはやはり植物との関りであったなと今思います。
欧米では精神科の治療に当たり前のように庭園や森林が利用をされています。
「庭園農園」ではこれに加えて、「園芸療法」「食事療法」「芸術療法」が加わる形です。
勿論、精神障害が無くても構いません。
むしろ、精神障害になって苦しむ前に、予防的に、健康な精神状態を保ってゆくことの方が合理的ではないでしょうか。
是非、明るい日差しの庭園農園で、体と心の健康を守っていってみてください。
庭園農園 井上 弘道